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カーインプレッション TOYOTA CROWN ハイブリッド&2.5L V6 ×アスリート&ロイヤル

TOYOTA CROWN

トヨタのクラウンといえば、中小企業の社長さんや部長さんから田舎のDQN(ヤンキー)、パトカーにまで使われる日本車の代名詞とも言えるクルマ。
トヨタといえば、カローラとクラウンがメジャーだったのだが、カローラセダンは実質的には死に絶え、プリウス勢が台頭してきた昨今では、クラウンが最後の昭和グルマとなるのかもしれない。

さて、新しいクラウンはエンジンが2.5Lの直列4気筒+モーターというハイブリッドが目玉というものの、実はシャーシのプラットフォーム自身は2003年に発売されたゼロクラウンことS180型からのキャリーオーバーで、10年以上前に設計されたものである。
とはいえ、スポット溶接やサスペンションのチューニングなどのおかげで、至る所ずいぶん進化はしている。

まず試乗したのは、ハイブリッドのロイヤル。
前述のとおり、2.5L 直列4気筒という一見チープなエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド心臓部は、実に今どきと言えば今どきで、価格も含めてかなり割り切っているとは思う。
実際この直4エンジン自身はかなり練られて設計されたもので、そう邪険にするエンジンでも無い。

高級車=多気筒エンジンという伝統やセオリーに縛られなったのは英断とも言えるが、欧州車では当たり前となったダウンサイジング・ターボエンジン(小排気量+過給器)やクリーンディーゼルを使わなかったのは、コストの問題であると共にトヨタならではの回答だと思った。

本気で環境や動力性能を考えるなら、ガソリン+モーターのハイブリッドではなく、クリーンディーゼル+過給器+モーターのハイブリッド(またはプラグインHV)にすればより良いのだろうが、そこまでは開発費が回らないのは当然だろうし、今のところ誰もそこまでは望んでいない。

この辺は、実にトヨタらしいマーケティングから成り立ったクルマであり「これくらいのパフォーマンスでこれくらいの価格なら、日本の主要クラウンユーザーは納得するだろう」という打算から導き出されたものだろう。

まあ、実際公道を走ってみると「通常の走行」では直4らしいノイズも気にならず、ハイブリッドならではのモーターのトルクも相まって、動力性能に不満を感じることはほとんど無い。
もっとも、ちょっとアクセルを踏み込むと、ノイズが無いとは言い切れず、ガサツな一面はある。

やはりモーターが使える低速域ではリニアだが、追い越しをするような加速ではアクセルの踏み込み量と加速量の違いに違和感を覚える。
これは無段階変速機の制御の熟成が足りないのだろうか。
また、ブレーキにも、初代プリウスに感じたような気持ち悪さがいまだに残っている。
電動パワーステアリングは確実に進化してダイレクト感が残っており、昔のようなゲームセンターのカーレースゲーム筐体のような不自然さは大幅に減った。

次に試乗したのは、2.5L V6エンジンのアスリート。
そこそこ足回りは固く、高級車の指標となるNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)では、ハーシュネス(コツコツとした突き上げ)が気になった。
しかも、今回の試乗車はスタッドレスタイヤを履いていたので、ノーマルタイヤとなれば、さらにハーシュネスは気になるだろう。
この辺の処理は欧州車には到底及ばず、やはりサスペンション周りは安かろう悪かろうで、トヨタ車の域を超えていない。

2.5L V6のエンジンは、古典的であるも非常に素直で、直噴であるD-4の独特のノイズなどは多少気になるものの、よく回る優等生なエンジン。
このご時世、ハイブリッドでは無くともレギュラーガソリン仕様なのもありがたい。
ただ、こちらもパワーは必要十分ではあるが低速トルクが薄く、この重たいボディ対しては、最新のエンジンと比べると少し物足りない。
ブレーキのタッチは、ハイブリッドモデルとはうって変わって割りと自然なフィーリング。

エクステリアは良くも悪くもクラウンで、賛否両論のグリルも発表から時間が経って、実車を見てみるとそこまで悪くはない。
プラットフォームが変わらないこともあり、ボディサイズもほぼこれまで通り。
狭い日本の道を走るには、丁度良い車幅で、5.2mという最小回転半径とショートフロントオーバーハングのおかげで取り回しは楽。

インテリアは高級「感」はあるが、これまた良くも悪くもクラウン調。
高級感は高級とはイコールではない。

タッチパネルで操作するエアコン類は直感的に理解はできるものの、簡単にいえば「らくらくスマートフォン」。
文字が大きいのは致し方ないが、どこかチープなのだ。
細かいことを言えばその液晶に映るフォントであったり、挙動であったり、とかくチープなのだ。
ファブリックシートの品質は20年前のクラウンから進歩がまったく見られずがっかりした。
安物の本革シートを使うくらいなら、アルカンターラと本革のコンビシートぐらい用意して欲しいものだ。

8インチの大きなディスプレイを持つナビ・オーディオシステムはそれなりの出来で、次第点レベル。
ただ、BluetoothでiPhoneと容易に接続して曲を楽しんで使ったりできるのは、家電のようで面白い。
音質はオーディオ機器レベルでは無いが。

ナノイーという疑似科学を恥ずかしげもなく搭載するところは、やはり家電レベルで笑ってしまう。

日本車のセダン全般に言えるのだが、なぜトランクにノブが無く、いちいちリモコンや車内のボタンを使わなくてはいけないのだろう。
この使い勝手の悪さは今すぐ改善して欲しい。

今回のクラウンで一番感心したところは、意外にもトランクルームにダンパーが使われていることだった。
メルセデスやBMWでも昔はダンパーが当たり前に使われていたが、最近はコスト削減のためか欧州車においても、トランク容量を減らしてでもダンパーを使っていなかった。
ところが、クラウンはダンパーを使っていた。ここは評価したい。
とはいえ、超高級車であるロールスロイスも見えるところにダンパーを使っていなかったりするからどちらが良いかは一概に言えないかのしれないが。

総括としては「この値段で、この高級感と燃費、動力性能であれば、売れても仕方ない」と思った。
車の基本性能、インテリアの質感などはBMWやアウディには逆立ちしても勝てないが、クラウンは、本来、欧州車と競合するような車でも無い。

特にタクシーでの都内の利用では燃費性能が素晴らしく、聞くところによるとリッター12kmは走るらしく、月々ガソリン代が5万円も安くなったという個人タクシーの運転手さんもいた。
となると、年間60万円もの経費が削減できる。これは大きい。

いまあるトヨタの開発予算で、いま日本で売れる高級車を作りました、というのであれば、このクラウンは今のところ成功しているとは思う。
直列4気筒のハイブリッドも含めて。

このクルマ、モノとしては良くできていると思う。
車体サイズも予想よりは大きくないし、日本で乗るには大きなセダンとしては最適なサイズ。

恥ずかしいのは、やはりこの「CROWNという文字」と「王冠のエンブレム」だろうか。
この2つにこそクラウンらしいアイデンティティがこもっているのだろうけど、これは田舎臭い原因の最たるものだろう。

そういう方には「L」マークがついた、レクサスというブランドもあるよ、ってことなんだけど、初代セルシオのように「トヨタのマークだけで、グレード名のエンブレムも付け無い」、そういう潔さや謙虚さが足りない。
まあ、クラウンには謙虚さは求められていないのだろうけど。

という訳で、クラウンに乗ることに抵抗がない人には、オススメできる車ではある、とは思った。